コラム

情報/トピックス
自転車は法令を守らないもの?
~自転車との事故減少に効果が期待される青切符導入について~
公開:2024年7月17日
自転車の交通違反に青切符導入が決定

 2024年5月17日に自転車の交通違反に反則金を納付させる通称「青切符」を盛り込んだ改正道路交通法が可決成立しました。それまでは自転車の交通違反に対しては罰則を伴うものとしては、刑事罰を科す通称「赤切符」でしか取り締まれなかったのです。この青切符の導入によって、自転車も自動車や二輪車並みに取り締まることが可能になり、より実効性が高まると考えられています。

 赤切符に当てはまらない交通違反は2023年には約133万件あり、その違反に対しては刑事罰を伴わない自転車指導警告カードを使った「警告」を行なうことしかできませんでした。この「警告」が全く効果がなかったという訳ではないですが、実効性に乏しかったというのが実情と思われます。

 この改正道路交通法は反則金の金額などを定める政令を整備したうえで、2年以内に施行されるとのことです。

自転車の事故の特徴

 自転車の交通事故の特徴は、相手が車という場合が77%を占めて圧倒的に多いということと、相手が車の場合に自転車運転者が大きな被害を受ける可能性が大きいということです。



自転車事故の相手当事者2023年(データ:警察庁ホームページ)



 すなわち車の運転者にとっては、もし交通事故にあった場合に相手が自転車の場合は相手が歩行者の場合と同じく、相手の被害程度が大きく重大事故になりかねないということになります。

 少し古いデータですが、ITARDA INFORMATION No.78(2009年)では、自転車と車が交通事故を起こした場合の車の運転者の無傷率が99.9%であるのに対し、自転車の運転者の無傷率は0.4%と、そのほとんどが死傷事故につながっていることを示しています。この数値は乗り物の性質上最近でもほぼ大きくは変わっていないと考えられます。


衝突車両運転者相関の運転者無傷率2007年(出典:ITARDA INFORMATION No.78)



若年層が多い自転車事故の特性

 自転車事故の特徴として、当事者に若年層が多いということが挙げられます。



第1.2当事者自転車運転者の事故頻度2007年(出典:ITARDA INFORMATION No.78)


 自転車事故頻度の高い年齢層は7~24歳、特に13~18歳の中学高校生が中心となっています。

 さらに自転車事故発生時間をみると、朝の高校生の通学時間帯と夕方の小学生の帰宅後外出する時間帯が2つのピークになっています。

 高校生の帰宅時間帯は朝と違ってばらけるのと、朝ほど焦っていないからか、際立ったピークにはなっていません。また、朝の時間帯は車の運転者も通勤時間帯の場合が多く、お互いに焦っているということがこの朝のピークにつながっていると考えられます。


 小学生に関しては、自転車通学が認められていない学校が多いため、午前中にピークは無く、午後に外出するときに自転車を利用する場合に事故に合う可能性が高まると考えられます。



自転車事故発生時間2007年(出典:ITARDA INFORMATION No.78)





自転車事故の原因の70%に法令違反がある

 自転車事故は他にも大きな特徴があります。それは、自転車運転者で交通事故死傷者となった人が歩行者の場合と比べて圧倒的に法令違反者が多いということです。



第1,2当事者自転車乗車中の法令違反別死傷者数2023年(データ:警察庁ホームページ)




(参考)第1,2当事者歩行中の法令違反別死傷者数2023年(データ:警察庁ホームページ)


 歩行中の交通事故死傷者のうち、法令違反の割合は20.8%に留まっているのに対し、自転車運転者の法令違反は約3倍の61.6%に上ります。これが交通事故件数の数字になるとさらに法令違反の割合は高くなり、交通事故にあった自転車運転者の69.5%に法令違反があったということになります。(もちろん車対車の事故の場合の法令違反は、車のどちらか一方または両方の車の法令違反は100%です。)



第1,2当事者自転車乗車中の法令違反別交通事故件数2023年(データ:警察庁ホームページ)



 自転車の法令違反で最も多いものが、安全不確認、次いで交差点安全通行違反です。また交通事故につながっていない場合も含めると、自転車運転者の法令違反で多いものに合図なしの進路変更・右左折があげられます。この合図なしに関していえば、若年層の法令違反率はほぼ100%です。自転車運転者はほぼ全員が合図せずに曲がったり、止まったり、発進したりするということです。



特記すべき行為があった自転車運転者 1993-2001年ミクロ(出典:ITARDA INFORMATION No.78)



 また、自転車運転者の約20%は無灯火です。さらに約10%は不適切な通行方法を行っていることになります。
 こういった法令違反が常態化した自転車運転者に対しても、車を運転する場合には予めそういう自転車運転者がいることを想定していなければ交通事故に巻き込まれる可能性があるということになります。その場合に車の運転者に全く過失がないということになる可能性は低く、自転車運転者の側が死傷する可能性が高いことを考えれば、自転車にはかなり注意する必要があります。


 

無知による法令違反が存在する

 それでは、自転車運転者になぜ法令違反が多いのかですが、これは自転車事故当事者に若年層が多いことと関係がない訳ではありません。彼らのほとんどは自動車免許や二輪・原付免許を持っていない年齢層です。交通法規をきちんと学んでいないと言っても過言ではありません。もちろん各学校で交通安全講習会が行われている場合もあり、各市町村の担当部署で出張講習というのも存在します。

 しかし、自転車は運転免許制ではなく、仮に交通安全講習を受けていなくても乗ることができます。現実に、車道を走らなければいけない道路でも歩道を走っている自転車がほとんどという現実は誰でも実感するところです。さらにその歩道で車道寄りを走行しない自転車もたくさん存在します。自転車は“車両”であり、自動車と同じルールも多く適用されています。

しかし、合図なし進路変更に至ってはほぼ100%という現実が、この交通安全講習の実効性が乏しいということの証明です。



 その他にも、歩道を高速で走る自転車や青信号で車のように右折する自転車、交差点で一時停止しない自転車、車両用信号ではなく歩行者信号に従って交差点を高速で横断する自転車、自転車も逆走禁止のはずの道路の一方通行を逆走する自転車など交通法規を守っていない自転車は多く、まるで交通法規を全く知らないとしか思えない状況です。

 今回の青切符導入に合わせて、しっかり取締りを行なうことを期待するとともに、各学校に任せきりにしないで、しっかり交通安全講習が実効性のあるものになることを期待します。


歩行者や他の自転車に対しては、加害者にもなる自転車運転者

 自転車運転者は車に対しては被害者になる可能性が高いのですが、他の自転車や歩行者に対しては加害者にもなります。

 自転車と歩行者の事故の場合、自転車運転者の無傷率は90.3%ですが、歩行者の無傷率は6.5%にすぎません。これは車対自転車の場合の逆と言ってもいい数字で、自転車の法令違反を見逃していたら危険という証明にもなります。


衝突車両運転者相関の運転者無傷率2007年(出典:ITARDA INFORMATION No.78)




自転車は法令違反するかもしれないと認識して安心運転を!

 車の運転者の感覚と自転車運転者の感覚は違います。こんなに見通しの悪い交差点は徐行するはずだと自動車運転者が考えるような場所でも自転車は一時停止せずにいきなり飛び出してくるかもしれません。一時停止無視率は自転車運転者は自動車運転者の2倍以上あり、なんと80%以上にもになります。



自転車運転者の信号・一時停止無視率 1993-2001年ミクロ(出典:ITARDA INFORMATION No.78)


 車を運転中に自転車を見かけたら、あの自転車はいきなり飛び出してくるかもしれない、予想しない方向へ進路を変えるかもしれない、急に曲がるかもしれないなど、常に「かもしれない」と考えて運転することが大切です。

 法令は知っているだろう、信号は守るだろうなどという「だろう」運転は自転車が相手の場合は危険です。法令を守らないかもしれない、信号を守らないかもしれないと考えて徐行するなどの「かもしれない」運転を心掛け、常に安全運転を行なうだけでなく、どんな場合にも対処できて危険を回避できる「安心運転」が求められています。




監修

大阪ガスオートサービス
大阪ガスオートサービス株式会社
SAFE推進部 安心運転訓練センター
企業ドライバーに特化した安全運転教育を提供し続け、20年。
受講企業数340社以上、受講者数は12万人を超える(2023年3月末時点)。
交通心理士/心理士補、指定自動車教習所検定員/指導員、交通機動隊白バイ隊員など、豊富な経験を持つ講師陣が、多角的な視点、専門的知見により、安全・安心運転ドライバーへと導く。
公式YouTubeチャンネル

お問い合わせ

安心運転講習の受講をご希望の方はお気軽にお申込ください。

研修のお問い合わせはこちら

PAGE
TOP