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交通事故のことを扱った歌をサイトで検索すると、決まって上位に表示される曲があります。恋愛や別れを歌った曲が多いなかで、交通事故を歌うという異色の曲、それがさだまさしさん作詩・作曲・歌唱の「償い」です。
シングル曲というわけではないので知らない人も多いのかもしれませんが、この「償い」はぜひとも一度は聞いてみてほしい名曲です。
この「償い」はかつて2002年の東京地方裁判所の判決において、山室裁判長が被告人2人に対し「唐突だが、君たちはさだまさしの『償い』という歌を聞いたことがあるだろうか」と切り出し、「この歌のせめて歌詞だけでも読めば、なぜ君たちの反省の弁が人の心を打たないか分かるだろう」と説諭を行ったということでも有名です。
判決の翌日にこの加害者の1人の少年の叔母から、歌詞を書き写した手紙が東京拘置所へ届いたそうです。その後、少年たちは控訴することなく実刑判決が確定しました。
「償い」の歌詞は、交通死亡事故を起こしてしまった「ゆうちゃん」が主人公の歌です。雨の日の夜に横断歩道を渡っていた歩行者に対して、車を運転していた「ゆうちゃん」が疲れて運転していてブレーキが間に合わなくて起こした交通事故です。この交通死亡事故の加害者となってしまった「ゆうちゃん」が相手の遺族に対してどう償ったのかを歌った曲です。
交通死亡事故は、加害者の側も被害者の側も一瞬にしてその後の人生が変ってしまうものです。加害者は被害者に対し、いくら償っても、償おうとしても、償いきれるものではありません。被害者にとっては、どんな償いをされたとしても、どう償われたとしても、二度と交通事故以前の日々には戻れないのです。
交通事故は2023年には年間307,930件起こっています。そのうち交通死亡事故は2,618件起こり、2,678人が死亡しました。
そのうち、過労運転による交通死亡事故件数は年によって大きく変動して、傾向というものはなく、交通死亡事故件数が近年減少していることに相関性もありません。しいて挙げれば増えて減っての繰り返し状態です。
出典:警察庁ウェブサイト(交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について)
交通事故が起こるのは、交通事故当事者のどちらか一方または両方が法令違反をしたからです。双方とも交通違反をしていない場合に交通事故は起こりません。
車対車の場合、第一当事者の法令違反率は100%です。車対歩行者の場合の死傷事故における歩行者の法令違反率(2023年)は20.8%で、車対自転車の場合の死傷事故における自転車の法令違反率(2023年)は66.8%でした。
すなわち、車対人の死傷事故のうち79.2%、車対自転車の死傷事故のうち33.2%は、歩行者または自転車が全く法令違反がないにもかかわらず、死傷事故にあっているわけです。
これを死亡事故に限ってみると、法令違反なしで死亡事故にあっているのは歩行者の39.6%、自転車の22.9%になります。歩行者も自転車も法令違反をしている方がより死亡事故にあう確率が高いという結果になります。
車の場合の交通事故の法令違反件数の多い順では、安全不確認、脇見運転、動静不注視、漫然運転、交差点安全進行義務違反、運転操作不適、一時不停止、信号無視、歩行者妨害、優先通行妨害の順です。
これを交通重傷事故に限ってみると、安全不確認、交差点安全進行義務違反、歩行者妨害、脇見運転、漫然運転、一時不停止、信号無視、優先通行妨害、動静不注視、運転操作不適の順になります。
さらに交通死亡事故に限ると、漫然運転、安全不確認、運転操作不適、脇見運転、歩行者妨害、交差点安全進行義務違反、信号無視、最高速度違反、通行区分違反、優先通行妨害の順です。
出典:警察庁ウェブサイト(交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について)
交通事故件数における法令違反で最も多いのは、安全不確認で、重傷事故においても同じく最も多い法令違反となっています。しかし、死亡事故に限れば、最も多い法令違反は漫然運転となっています。
法令違反別交通事故件数(原付以上第1当事者)2023年
警察庁ウェブサイト
(交通事故の発生状況・交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について・交通重傷事故の発生状況)をもとに作成
どういう法令違反が交通事故を引き起こすかに加えて、どういう法令違反がより重大な事故を引き起こすのでしょうか。
交通事故における法令違反全体と比べて、重傷事故を引き起こす法令違反、死亡事故につながる法令違反の方が最も気をつけなければいけない、犯してはいけない法令違反のはずです。
法令違反項目ごとの重傷事故、死亡事故の発生割合(原付以上第1当事者)2023年
警察庁ウェブサイト
(交通事故の発生状況・交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について・交通重傷事故の発生状況)をもとに作成
交通事故件数全体のうち、各法令違反の何%が重傷事故、死亡事故につながるかを調べてみると、重傷事故では、最高速度違反、歩行者妨害、通行区分違反、優先通行妨害、交差点安全進行義務違反、信号無視が比率が高く、死亡事故では、最高速度違反、通行区分違反、歩行者妨害、漫然運転、運転操作不適の比率が高いことがわかります。
これを安全不確認を基準にして、どのくらい危険な法令違反かを示すと、最高速度違反は重傷事故で4.65倍、死亡事故で91.56倍の危険な法令違反であることがわかります。それ以外では、通行区分違反が重傷事故で2.35倍、死亡事故で10.99倍にもなり、歩行者妨害が重傷事故で2.72倍、死亡事故で5.04倍危険な法令違反となります。
法令違反項目ごとの重傷事故、死亡事故の発生比率(原付以上第1当事者)2023年
警察庁ウェブサイト
(交通事故の発生状況・交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について・交通重傷事故の発生状況)をもとに作成
死亡事故につながる法令違反は、最高速度違反、通行区分違反、歩行者妨害、漫然運転、運転操作不適の順、重傷事故につながる法令違反は、最高速度違反、歩行者妨害、通行区分違反、優先通行妨害、交差点安全進行義務違反の順になります。
交通死亡事故を起こしてしまうと、それまでの生活が一変してしまいます。それは加害者も被害者も同じです。一度起こしてしまった交通死亡事故は、いくら償おうとしても償いきれるものではありません。そういう認識を持ち、絶対に交通死亡事故を起こさない運転をする以外に方法はありません。
交通事故につながる危険な行為は、法令違反を犯すことです。それもより重大な交通事故につながる法令違反は決して犯さないという強い意志が必要です。
法令違反を犯さないというのは運転をするにあたっての基本中の基本です。それがきちんと守られているのか、もう一度再確認してみましょう。毎日通る道だからよく知っている、前の車と同じスピードで走っているから大丈夫、たいした雨ではないからいつも通りの運転で問題ない、などと根拠もなく大丈夫と思いこんでいる場合もたくさんあります。
普段の運転を再確認して、自分の運転は大丈夫なのか、一度振り返ってみることが大切です。安心運転講習などで他の人の目でしっかりチェックしてもらうことも役に立ちます。毎日の運転を見直して、全ての運転者がより安心な運転を行なうことができるようになることで、交通事故のない社会の実現に近づくのです。
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