目次
交通事故にはあまりに衝撃的だったり常識外だったりして、ニュースで取り上げられていつまでも記憶に残るものがあります。マスコミが大々的に報道したために印象深いのかもしれません。その事故の結果、新たに法制度や罰則が整備されて、より厳しくなったものもあります。車両の安全対策が急速に進んだものもあります。
そんな交通事故も交通事故当事者の何かしらの原因があって起こっています。そんな悲惨な、常識外の交通事故が二度と起こらないように原因と対策について考えてみます。
最初は、2019年の池袋暴走事故を振り返ります。加害者の運転する車が交差点に進入して歩行者や自転車らを次々にはねて、2人が死亡し、9人が負傷した交通事故です。加害者は旧通商産業省官僚の87歳で、逮捕拘束されることなく在宅起訴となりました。ほぼ同時期にJR三ノ宮駅前でバス運転手が人の列に突っ込んで2人死亡、4人負傷させた事故では、60代のバス運転手は即逮捕拘束されたにもかかわらず、それ以上の被害の池袋暴走事故で逮捕拘束されなかったことが不平等という意識を生み、いわゆる上級国民という言葉が日本中に認知された交通事故です。
加害者はブレーキを踏んだが車の電気系統の故障で効かなかったとして、あくまで車の欠陥を主張してアクセルとブレーキを踏み間違えたことを認めようとせず、裁判ではメーカーの担当者が車に欠陥はなかったと調査して証言するまでになりました。また車に設置されているEDR(イベント・データ・レコーダー)にもブレーキを踏んだ痕跡は認められませんでした。
この加害者には禁錮5年が言い渡され結審しましたが、判決時に裁判長から「遺族に真摯に謝っていただきたい」という異例の言葉があったことも加害者に対する国民感情を表している事故でした。
この交通事故の原因はアクセルとブレーキの踏み間違いです。加害者はブレーキを踏んだと主張していますが、ブレーキを踏んだ痕跡はなく、逆に交差点前に時速53kmだった速度が最終的には時速96kmにまで加速しています。
交通事故総合分析センターのデータによるとアクセルとブレーキのペダル踏み間違いによる事故は、2023年に3,110件発生し、38人が死亡、4.343人が負傷しています。さらに 2018年~2020年のデータ分析結果では、ペダル踏み間違いによる事故件数は全年齢で多いのに対し、死亡重傷事故と車両単独事故、人対車両事故は圧倒的に高齢者が多いことがわかります。
この事故の加害者はあくまでブレーキを踏んだと主張して車の欠陥を主張したことが、本心からなのか刑罰を免れるためなのかはわかりませんが、意識してアクセルを踏んだのではないことだけはわかります。
つまり無意識にブレーキを踏んだ意識でアクセルを踏むからこそ危ないのです。高齢者にはこの傾向が強いと考えられます。
そのために事故後に様々な対策がとられました。まず、75歳以上の運転者のうち一定の交通違反歴のある者に対して、運転免許更新時に運転技能検査を義務づける道路交通法改正が2020年に成立し、2022年より施行されました。
車の装置に関しては、2019年に「自動車の自動ブレーキ義務化」が発表され、2021年から新型の国産車を対象として義務化されました。さらに継続生産車や輸入車へも義務化され、軽トラックを除き2026年7月には全ての販売される車には自動ブレーキが装備されることになりました。(軽トラックは2027年9月)
さらに2024年6月に車のアクセルとブレーキの踏み間違い事故防止のための安全装置の搭載を2025年6月にも義務化すること発表されました。2022年に日本がその国際基準策定を提案するなどして議論を主導してきたものです。 障害物の手前でアクセルを踏み込んでも急発進せず、車内の表示器で警告する装置で、すでに国産の新車のほとんどには搭載され、後付できる安全装置として全ての車への搭載を義務付けるものです。
つい最近の大きな交通事故のニュースは、埼玉県川口市の未成年の運転者が飲酒した後で車を運転し、一方通行を逆走した挙句、時速100kmを超える速度で一時停止することなく交差点を直進し、走行中の車の側面に衝突して1人を死亡させたというものです。
この痛ましい事故にはいくつもの法令違反が関係しています。まずは最高速度違反。幅2.5m程度の道を時速100kmを超えるスピードで走るようなことはあってはならない違反です。さらに一方通行の逆走。結果的に車が来るはずのない方向から車が現れることになるため、危険度はかなり大きく、正面衝突があってもしかたない行為です。また加害者は「逆走を警察に見つかるとまずいと思い一気に通り抜けようとした」と供述していることから過失ではなく故意に逆走したことになります。
そのうえ飲酒しての運転。加害者は「酒を飲んでから3時間くらい休んだのでいいと思った」と供述しているようですが、実際その後の取り調べで基準値を超えるアルコールが検出されました。そのうえ加害者の年齢は18歳なので、飲酒自体に問題があることになります。
この18歳の加害者は中国籍で日本の運転免許を持っていたようです。外国人が日本で運転する場合、ジュネーブ条約加盟国の場合は国際運転免許証で日本国内で車の運転ができます。それ以外にスイス、ドイツ、フランス、台湾、ベルギー、モナコの住民は自国の運転免許証(+日本語翻訳文)で運転が可能です。しかし、中国はこのどちらにも当てはまらないため、日本の運転免許証が必要です。この場合は中国の運転免許証を持っている場合は、外免切替といって知識確認と技能確認を受けることで日本の運転免許証を手に入れて運転することができるようになります。
この知識確認は日本の基本的な交通法令等に関する問題が出題され、出題10問のうち7問以上の正解で合格となります。技能確認は日本の交通ルールを理解して、安全運転のポイントを押さえているかどうかをチェックして、100点満点からの減点方式で採点し、70点以上で合格となります。果たして10問の質問で日本の交通法規が理解できているのか、70点という基準で危険運転しないことが確認できるのか疑問でもありますが、国際運転免許証の場合はそれさえない訳なので、そのこと自体が著しく危険とは言えません。
加えて加害者の車に同乗していた2人がその場から逃げたということも問題になっています。
このように交通違反のオンパレードの交通事故ですが、このような悲惨な交通事故をなくすことはできるのでしょうか?
ペダル踏み間違い事故に関しては、車両の側からも対策が練られて、交通法規や罰則の強化以外にも対策が進みました。
それでは飲酒運転、逆走、一時不停止、スピード違反に関して、車やシステムで防止できないのでしょうか?
飲酒を感知すると運転できない車、逆走を知らせて安全に停止させる装置、一時停止の場所での減速と停止指示、スピード違反車両に対する警告と減速指示など、GPSやAIを活用することで車に搭載することは将来に渡って可能な技術のように思います。その技術を搭載することで逆に危険な状況を作り出さないかどうかを検証することが難しいかもしれませんが、ぜひ交通安全のために、交通事故0を目指すために進めてほしいと思います。
交通安全のために車の安全機能は進化し、運転者のミスや法令違反(本来してはいけないものですが)をカバーしてくれるようになってきています。道路も整備され、交通事故が起こらないように対策されてきています。さらに交通法規も違反者に対して違反を起こさないように改訂されて、厳罰化による抑止力も強化されてきています。
あとは運転する者の安心運転の自覚だけです。決して交通事故を起こさないという自覚を持ち、車を運転する場合には常に危険と隣り合わせだと意識し、運転者としての責任を持って、安心運転に努めることが大切です。安全運転装置は運転時の安心のために必ず設置して、しかしそれが全く必要ではない運転を目指して、日頃から安心運転を行うことが求められています。
監修
PAGE
TOP