衝撃的な交通事故の事例として絶対にはずせないものとして、「東名あおり事故」があります。この交通事故によって、それまでにもあったあおり運転がより顕在化し、加害者への非難とともに厳罰化を求める声が一気に湧き上がりました。
それまではあおり運転のような危険運転に対する明確な規定や罰則がなく、従来の道路交通法の枠内で対処していたものに対し、新たに道路交通法を改正して「妨害運転罪」を新設して罰則を強化することになったのです。
あおり運転は本当に危険な運転です。自分自身が行わないことはもちろん、その被害に遭わないために、そして実際にあおり運転に遭ってしまった場合について考えてみます。
あおり運転厳罰化の契機になったのは、2017年に起こった「東名あおり事故」。これは追い越し車線に車2台が停車していたところに後続のトラックが衝突して2人が死亡、4人が重軽傷を負った交通事故です。
加害者が被害者の車を執拗に追い回したうえに車の前に割り込んで停車させたことで、当時の道路交通法で危険運転致死傷罪が成立するかが争われましたが、裁判では停車させるまでのあおり運転を認めて、加害者に懲役18年を言い渡すことになりました。しかし、この裁判は加害者(被告)が上告しているためまだ結審していません。
どんな運転があおり運転として取り締まりの対象になるかというと、以下の10項目が挙げられています。
(1)車間距離を極端に詰める(車間距離不保持)
(2)急な進路変更を行う(進路変更禁止違反)
(3)急ブレーキをかける(急ブレーキ禁止違反)
(4)危険な追い越し(追越し違反)
(5)対向車線にはみ出す(通行区分違反)
(6)執ようなクラクション(警音器使用制限違反)
(7)執ようなパッシング(減光等義務違反)
(8)幅寄せや蛇行運転(安全運転義務違反)
(9)高速道路での低速走行(最低速度違反)
(10)高速道路での駐停車(高速自動車国道等駐停車違反)
これは、東名あおり事故が社会問題化したことを受けて、急遽2020年6月10日に公布され、間を置かず6月30日から施行された改正道路交通法に規定されたものです。これらの行為は「妨害運転罪」として処罰の対象になることになりました。
警察庁による2019年に行われた「あおり運転に関するアンケート」によると、過去1年間であおり運転被害に遭ったという人は全体の35%にも上ると発表されています。これは"アンケートに回答した人の内”という条件がつくため、実際に被害に遭った人の方が回答率が高いことが想定されるため、現実はもう少し低いと考えられますが、運転者の3分の1以上があおり運転に遭ったことがあると回答していることになります。
さらにあおり運転としてどういう被害に遭ったかというアンケート調査では、「後方からの著しい接近」が81.8%と圧倒的な回答となっています。
過去1年間におけるあおり運転被害の有無
出典:政府広報オンライン「あおり運転」は犯罪です!一発で免許取消し!
あおり運転の被害の態様
出典:政府広報オンライン「あおり運転」は犯罪です!一発で免許取消し!
あおり運転と認識される多くが「後方からの著しい接近」ということで、交通違反取り締まりに関しても、「車間距離不保持」の取り締まりが強化されました。
2016年から2023年までの高速道路における車間距離不保持の取り締まり件数を表したグラフから、東名あおり事故が起こった2017年以降、2018年から2020年まで車間距離不保持すなわちあおり運転に対する取り締まりが強化されたことがわかります。
東名あおり事故が起こったのが2017年、改正道路交通法が施行され妨害運転罪が適用になったのが2020年であることを考えると、この期間だけ車間距離不保持の違反が増えることは考えにくいため、いかに厳しく取り締ったのかがわかる数字になっています。
裁判記録によると、東名あおり事故の被害者は、加害者の車がパーキングエリアの所定の駐車エリア以外に停めてあったことに対し、「邪魔だ、ボケ。」と非難したとされています。この言葉が、加害者のその後のあおり運転につながった訳です。またこの加害者は、以前から日常的に路上での危険運転や暴力行為を行っていたということが加害者の同乗の者の証言で明らかになりました。
さらに加害者は東名あおり事故前後にも同様にあおり運転を行い、車を止めさせて降車させようとしたが、運転者が警察に通報したために未遂に終わった(強要未遂罪)という記録も残っています。
このようなあおり運転常習者ともいえる車を事前に把握することは難しいため、被害に遭わないため、さらに被害に遭った場合にいかに対処するかは常に考えておく必要があります。
1つめは自分からあおり行為をしないことです。これは運転だけでなく、言葉も当てはまります。自分で意識していなくても、急ブレーキをかけたり、クラクションを鳴らしたり、車の前に割り込んだり、前の車との車間距離を詰めたりすると、「あおられた」と思われることがありますので注意が必要です。もちろんあおり行為を受けたからと仕返しをするなど絶対にやめるべき行為です。
2つめは道を譲るゆとりを持って運転することです。もちろんずっと追い越し車線を走り続けるような運転は道を譲る行為とはいえません。
3つめはドライブレコーダーを設置して相手に映像を記録していることがわかるようにすることです。それだけでもあおり運転をする運転者への抑止力になります。さらに、何かあった際の客観的証拠にもなりえます。
4つめは速やかに警察に通報することです。車から出るように言われても決して出てはいけません。東名あおり運転の加害者も、この件以外の事件の際に、被害者が警察に通報することで諦めています。車を停止するように要求されても決して高速道路上に停めてはいけません。なるべく早くにパーキングエリアやコンビニのような人目のあるところに避難して警察に通報することが大切です。
5つめは、日頃から安心運転をすることです。これが一番大切なことになります。
危険運転によって、車は凶器にもなりえます。危険運転が危険運転を呼び、交通事故を誘発しないとも限りません。
あおり運転をしても一瞬の気は晴れるでしょうが、その分自分自身を含めて社会を危険に巻き込むことになります。あおり運転が厳罰化され妨害運転罪が適用されるため、事故を起こしていなくても逮捕されるようになりました。
世の中からあおり運転をなくすことは難しいと思いますが、安心運転を心掛けることで、あおり運転をすることはもちろん、あおり運転に遭うことも確実に減ります。
普段から気持ちに余裕を持ち、道を譲ることを心掛けて安心運転に努めることが求められているのです。
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