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2021年2月、大分県の県道交差点を右折中の車に、時速194kmで直進してきた車が衝突して右折していた車の運転者が死亡した交通事故は、これが過失運転なのか危険運転なのかということで裁判中です。
スピード違反に関する危険運転の成立要件が、「進行を制御するのが難しい高速度で走行する行為」となっているため、いくら時速194kmで走っていても進行を制御することが難しくなければ、危険運転には該当せず過失運転になるというのが係争理由です。時速194kmのスピードが過失なのか、考えさせられる裁判です。
加害者は、「買ったばかりの外車で何km/hまで出るか試したかった」、「加速する感覚を楽しみたかった。150キロから170キロを出そうと思ってアクセルを踏んだ」、「加速する感覚を感じ、ワクワクする感じがあった」と話しており、この意識がどれだけ危険なものか、その結果がどういうことをもたらすのかということに想像力がおよばないことに対し、非常に危険な運転者であると考えられますが、その危険性を止めることができないうえに、交通事故後でも厳しく処罰できない可能性があることが考えさせられる事例でもあります。
2018年11月、阪神高速神戸線でポルシェに乗った医師が時速216kmでトラックに衝突してトラック運転手を死亡させた交通事故では、最高裁が弁護側の上告を棄却、危険運転が成立するとして2020年11月懲役8年の実刑が確定しました。
弁護側がカーナビ操作による脇見運転が原因として危険運転は成立しないと主張したように、時速216kmで運転していて脇見運転をすること自体は危険運転ではないと考えていることになります。
これに対して、時速216kmものスピードで右カーブに進入して曲がりきれずに横滑りして車を制御できなくなったと認定して危険運転を適用したものです。もしカーブではなく直線で追突していたとしたら果たして危険運転は適用されたのでしょうか。
2020年8月、首都高速道路を時速268kmで走行し、前方の車に追突してその車に乗っていた2人が死亡した交通事故に関しては、未だに係争中で判決が確定していません。この事故は後続のトラックのドライブレコーダーの映像があり、問題の運転手は事故直前にブレーキをかけることなく追突していることがわかっています。
危険運転致死傷罪で起訴されていますが、時速268kmものスピードで運転しており、直前のトラックが右車線に避けて危険を回避した直後にその直前にいた車に追突したものであり、制御できなかったと立証できるのかどうかが争われていると考えられます。
猛スピードで走っていて、直前のトラックが避けた瞬間にその前の車が現れた場合に、ブレーキを踏むまたは左右に退避することができるかどうかが制御することにあたると思われますが、この場合は制御する時間さえなかったと考えられるからです。
明らかに危険運転なのですが、法の条文からは危険運転を認定する根拠の認定が難しいということが長い間係争中の理由と考えられます。
危険運転致死傷罪が成立する要件は以下と定められています。
・酩酊
飲酒や薬物を飲んだことで判断能力が低下した状態で運転する行為
・高速度
進行を制御するのが難しいと判断される高速で走行する行為
・技能欠如
無免許など進行を制御する運転技能がないままで運転する行為
・通行妨害目的(あおり運転)
車の直前侵入・接近、速度超過等の人や車の通行を妨害する目的で走行する行為
・信号無視
危険な速度での運転で赤信号を無視して走行する行為
・通行禁止道路走行
一方通行や高速道路の逆走のような通行禁止の道路を危険な速度で走行する行為
どの項目に関しても、曖昧な条文で判断を要する項目があるため、一律に危険運転となるかどうかの判断が難しいのが問題点です。
判断力低下の判断、運転制御の難しさの判断、技能不足の判断、妨害する目的の有無の判断、危険な速度の判断という条項があり、その意図はなかったと言えてしまいます。制限速度の2.5倍以上の運転は危険運転とする、などの客観的な指針を明示することが、交通事故を減らすことに通じるのではないかとも考えてしまいます。
危険運転致死傷罪は2001年に制定されました。その後2007年には対象を四輪車以外の自動二輪車と原動機付自転車にも拡大されました。このとき同時に自動車運転過失致死傷罪も新設されました。自転車に関しては現時点では対象になっていません。
近年10年の危険運転致死傷罪の適用件数は700~800件前後で微増という状況です。これが過失運転致死傷罪の件数と比較して圧倒的に少なく、曖昧な法の条文によって危険運転致死傷が適用できずに過失運転致死傷の適用となる場合が相次ぐため、法改正を要望する動きとなっています。
出典:警察庁Webサイト 交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について
出典:法務省 過失運転致死傷等の検挙人員の推移(平成元年以降)及び危険運転致死傷の検挙人員の推移(平成13年以降)
2020年の福井酒気帯び運転衝突事件では、加害者の運転者がパトカーの追跡を受け時速105kmで軽乗用車に衝突して起こした交通死亡事故に対して、「一貫して直進していて大きく走路がぶれることはなく、制御が困難な高速度で走行させたと認定するには合理的な疑いが残る」として危険運転ではなく過失運転と認定しました。
2018年の津市タクシー衝突事件では、加害者が国道を146kmで走行してタクシーと衝突し4人を死亡させた交通事故で、「被告の車が衝突に至るまでの間に、進路から逸脱したことは証明されておらず、『制御が困難な高速度』にあたるとは言い難い」として危険運転ではなく過失運転と認定しました。
両事故ともまっすぐ走らせることができれば、例え衝突しても制御可能だったと認定したことになります。
衝突したこと自体が制御できなかったから衝突したのではないかとも考えれるのですが、結果的に過失運転とされており、被害者の遺族にとって悔しさや憤りを残すケースも少なくありません。
交通事故が起きたのは必然ともいえる危険な運転者からどうしたら身を守ることができるのでしょうか?
まずは自分自身は同じような考え方を絶対しないこと。尼崎の場合はBMWに追い抜かれたことをきっかけに危険運転に及んでいることを考えてもこのような考え方の運転者が一定数いることは考えておく必要があります。
スピードを出しやすい高速道路の車の少ない区間や時間帯、一般道路でも信号のない長い直線の走行時などでは、危険運転をする車の存在を予測して走ることが大切になってきます。
高速道路走行中は前後の車の動きに十分注意して不審な動きをする車があったらすぐ対処できるようにしましょう。後ろの車が急に車線変更したら後続から猛スピードの車が近づいている可能性を考えましょう。
何よりその可能性のある場所に不用意に近づかないことが大切です。被害者に何の過失もない死亡事故。加害者は制限速度の2倍3倍の危険なスピードで走っているのに、危険運転ではないとされる交通事故。そんな交通事故が存在する限り、近寄らない以上に巻き込まれない方法はありません。安心運転には、状況を判断してその場所で運転しないという選択肢も含まれるのです。
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