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事業用車両を運転する場合には、プライベートでの運転以上に様々な制約と責任がかかります。
業務中の交通事故事例として「八街児童5人死傷事故」のことを考えてみます。八街児童5人死傷事故は2021年6月に、下校中の小学生の列に飲酒運転のトラックが突っ込み、小学生5人が死傷した千葉県八街市で起きた交通事故です。この事故では飲酒運転でさらに居眠りをしていたトラックの運転手が危険運転致死傷罪で懲役14年の判決を受け、控訴せずに刑が確定しています。
八街児童5人死傷事故の問題点は、トラックの運転手が飲酒運転をしていたということ、また会社が乗務にあたってアルコールチェックなどを一切行っていなかったことでした。
アルコールチェックに関しては、緑ナンバーの事業用車両に関しては2011年5月から義務化されていたのに対し、白ナンバーの自家用車両を事業用に使う場合に関しては義務化されていませんでした。
この交通事故を受けて2021年11月に道路交通法施行規則が改正され、白ナンバーの自家用車両の事業用車両に関しても2022年4月からアルコールチェックを義務化することになりました。これにより、事業用車両を5台以上持つかまたは乗車定員11人以上の事業用車両が1台でもある場合は、アルコールチェックの義務化と同時に安全運転管理者を置き、安全運転指導を行なうことが義務化されました。
さらに2023年12月からは検査にアルコール検知器を用いることも義務となりました。
安全運転管理者には、以下の業務が定められています。
1.運転者の適性等の把握
2.運行計画の作成
3.交替運転者の配置
4.異常気象時の措置
5.点呼と日常点検
6.運転日誌の備付け
7.安全運転指導
8.酒気帯びの有無の確認及び記録の保存
9.アルコール検知器の使用等
安全運転管理者は年1回の定期的な講習の受講が必要です。さらに違反した場合は、2022年10月から安全運転管理者の選任義務違反として50万円の罰金が科せられることとなりました。
事業用車両を運転する場合は、プライベートの運転の場合と違って、会社に対しての義務と責任が規定されているということになります。
八街児童5人死傷事故の運転者は飲酒をして事業用車両を運転していたわけですが、飲酒運転は悪質で危険性の高い交通違反として「交通三悪」と呼ばれています。他の2つは無免許運転とスピード違反です。また飲酒運転、無免許運転、暴走運転、ひき逃げの4つを指して「交通四悪」と呼ばれることもあります。
危険運転致死傷罪のうち最も適用数が多いのが「アルコールの影響」いわゆる飲酒運転です。ニュース等で話題になっている速度超過の規定が曖昧なのに対し、飲酒運転の場合は危険運転が適用しやすいということも関係していると思われます。
飲酒運転による危険運転致死傷罪の直近5年の適用数は、交通事故死傷者数の減少傾向に反して横ばいから増加傾向を示しています。
飲酒運転は昼間よりも夜間に多く発生し、夜間の死亡事故発生数の内、約4分の1を占めています。
少々古いデータですが、1999年のデータでは全死亡事故に対する飲酒運転の割合は16%だったのに対し、夜間の割合は25%を占めていました。時間帯別にみると、昼間は10%以下なのに対し、夜間は22時以降4時まででは30%を超す割合となっており、夜間に飲酒してそのまま運転をすることで交通死亡事故を引き起こしている場合が多いことがわかります。
飲酒運転事故は女性より男性の方が起こす割合が高く、高齢者より若年層の方が多い交通事故です。グラフではわかりづらいですが、縦軸の目盛が男性は女性の約5倍になっていることでわかります。
出典:ITARDA INFORMATION NO.28 飲酒と交通事故
特に若年層に対して、飲酒運転は交通事故の危険性が高いことの啓蒙が必要です。割合として男性より少ない女性に関しても、免許取得人口の増加、飲酒人口の増加の双方により飲酒運転の交通死亡事故が増加しないように啓蒙が必要と思われます。
当然のことですが、飲酒量が多くなればなるほど体内に残るアルコール量は多くなり、交通事故を起こす割合は高くなります。
出典:ITARDA INFORMATION NO.28 飲酒と交通事故
人体の血中アルコール濃度を求める計算式として使われているものに上野式算定法という式があります。
出典:ITARDA INFORMATION NO.72 ちょっとのお酒なら大丈夫なの!?
この計算式を用いると体重75kgの男性がビール缶1本(350ml)を飲んだ場合の血中アルコール濃度は0.264mg/mlになります。(ビールのアルコール濃度を5%、アルコールの比重0.792、男性の体重の70%が水分として計算)
この数値は酒気帯び運転の基準値「血中アルコール濃度が0.3mg/mlまたは呼気1リットルにつきアルコール0.15mg」にほぼ相当します。缶ビール1個を飲んだだけで酒気帯び運転になるということです。
このアルコール濃度は時間とともに減少しますので、例えば2時間経過後でもこの計算式上では1リットル程度のビールを飲んでいれば、酒気帯びとなる可能性があるということになります。
自分でもう酒は抜けたと思って車を運転すると、実際はまだ抜けきっていなくて飲酒運転となってしまう可能性があります。ある程度の判断材料として計算式を覚えておくのもいいと思いますが、飲んだ酒量によっては翌朝でもアルコールが抜けきっていないこともあるので、過信は禁物です。もちろん飲酒をしたら車に乗らないというのが鉄則です。
飲酒をすると判断力が鈍くなります。とっさの反応時間も遅くなります。またハンドル操作やアクセル・ブレーキ操作が過大になる人もいるようです。
酒気帯び運転の基準はそれ以上になると交通死亡事故・交通重傷事故の可能性が高くなるということで決められていますが、たとえそれ以下でも交通事故の危険性は酒を飲んでいないときよりも大きくなります。
特に飲酒運転で交通事故を起こす人は、再度飲酒運転で交通事故を起こしやすく、アルコール濃度の高い、いわゆる程度の重い飲酒運転ほど習慣性が高いことがわかっています。
出典:ITARDA INFORMATION NO.28 飲酒と交通事故
飲酒運転は絶対にしない・させないことを肝に銘じて、本人・周囲の人・会社を中心に社会全体で取り組むことが大切です。
特に事業用の車を運転する場合には、自分自身だけではなく、会社の名前と義務・責任を背負っていることを自覚して、安全運転をすることが絶対条件です。そのためにも飲酒運転は決して行ってはいけないのです。
そして自分自身だけでなく、周囲の人や会社にも安心してもらえる「安心運転」をこころがけ、身近なところから飲酒運転をなくしていく決断が社会に求められているのです。
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