コラム

こんなとき
凍結路面での事故と水の深い関係
~氷は本来滑らない?~
公開:2024年12月26日
12月は交通事故発生件数が多い

 12月は交通事故が最も多くなる月です。その理由はいろいろ考えられます。


  • ・年末による事業用車両を中心とした交通量の増加
  • ・慌ただしく急いでいて運転を焦るドライバーの心理状況
  • ・昼の時間が年間で最も短く、薄暮や夜に運転することが多くなる、通勤通学時間がまだ暗いといった日照時間
  • ・暖房により、ガラスが曇るなどの車内環境
  • ・雪が降り、さらには気温低下による凍結などの路面状態


などが挙げられます。





雪や路面凍結は交通事故件数に影響しているのか

 雪が降ったり、路面が凍結したりすることは、交通事故件数にどのくらい影響しているのでしょうか?

 年間を通じてほとんど雪の降らない大阪と冬には雪が降り積もる北海道の月別交通事故件数を2023年のデータを用いて比較してみます。わかりやすく年間平均を1.0として各月が平均と比べてどの程度の指数になるかで月別の交通事故指数を計算してグラフ化してみました。




出典:大阪府警察 大阪の交通白書(令和5年版)

出典:北海道警察 北海道の交通事故概況


 2地域のグラフを比較すると、大阪に関しては12月が交通事故件数が最も多く、指数で1.25となっているのですが、1月は0.92、2月は0.87とむしろ平均より交通事故件数が少なく、冬に交通事故件数が多いとは言い切れない結果でした。
 これに対し、北海道は12月が1.23と最も交通事故件数が多いことは大阪と同じですが、1月も1.01、2月も1.06と冬に交通事故件数が多いことが指数でもわかります。また北海道に関して言えば、10月11月3月に関しても雪の影響が考えられ、それらの月も軒並み平均以上の指数となっていることが特徴です。
 このことから、雪や路面凍結が交通事故発生に影響をあたえていることが推定されます。


アイスバーンとスリップ

 雪が降ったり、雨のあとで気温が急激に下がったりすることで路面が凍結した状態になったものがアイスバーンです。アイスバーンには大きく3種類あって、それぞれ形成過程が異なります。

1. 圧雪アイスバーン(圧雪路面):積もった雪が車で踏み固められて圧縮された状態のもの

2. ミラーバーン(氷盤路面):雪の水分が周囲へはじかれ踏み固められて表面がつるつるになったもの

3. ブラックアイスバーン:路面の水が急激な気温低下によって氷状になったもの

 特にブラックアイスバーンに関しては雪が降っていなくても起こることに加えて、雪の白い色をしているということではなく、アスファルトの上に透明な氷がはっている状態で、夜間には氷が判別できない可能性が大きく、特に危険なアイスバーンと言われています。

 このアイスバーンがどれだけスリップするかを比較したJAFの実験によると、アイスバーン上でブレーキをかけた場合のスリップ距離が圧雪路面で約2倍、氷盤路面とブラックアイスバーンでは約6~8倍近くになることがわかります。特にウェット路面と同じような路面に感じるブラックアイスバーンは、心理的にも油断を生むため特に危険です。



出典:JAF 路面は黒いけど、止まれない!「ブラックアイスバーン」とは…?


氷や雪は滑らない

 アイスバーンで車がブレーキをかけてスリップする距離が何倍にもなることを考えると、凍結路面は危険だということがわかります。

 しかし、本来「氷や雪は滑らない」のです。アイスバーンで車がブレーキをかけても普段より停止するまでに長い距離を必要とする、つまり滑ると言っているのに、氷や雪が滑らないなんて何を言っているのかと思われそうですが、実際は氷や雪はそのままでは滑らないのです。

 氷を冷蔵庫から出して触った場合に手に貼りついたという経験をしたことがある人も多いと思います。雪氷を積み上げているイヌイット(エスキモー)の住居が雪氷が滑らずに積みあがるのを知っている人も多いでしょう。そんな氷や雪が滑らないことを体験したり知っていたりする人も多いはずです。

 ではなぜ氷や雪の上を車で走ると滑るのか?それは車と氷や雪の間に水の膜ができるからです。



出典:国土交通省群家国道維持出張所 なぜ雪でスリップするの?



  

氷の上の車が滑る原理

 車に踏みつけられた氷や雪は、車の圧力で溶けて水になります。決して熱で溶けている訳ではなく、圧力で溶けるのです。溶けると路面の氷や雪と車のタイヤの間に水の膜ができるので、車が滑るのです。氷の上でスケートをする場合と同じです。さらに水が滑る役割をしていることは、雨の日のハイドロプレーニング現象とも同じになります。


凍結した路面で滑らないために開発されたタイヤ

 凍結した路面で滑らないためには、路面の氷や雪と車のタイヤの間にできた水の膜を取り除いたり減らしたりすることが効果的です。

 そのために開発されたのがスタッドレスタイヤです。スタッドレスとは「鋲がない」という意味ですが、これは以前の凍結路面用のタイヤがタイヤにピン(鋲)がついていて路面に刺さることで抵抗を増やして滑らないようにしたスパイクタイヤというもので、そこからピン(鋲)をなくすために開発したタイヤだからです。スパイクとは野球の靴を思い浮かべると分かると思います。

 スタッドレスタイヤは、凍結路面と車のタイヤの間にできる水の膜を無くせば滑らないということを応用したタイヤです。柔らかいゴム素材のうえ、太く深い溝が作られていて、凍った路面の凹凸に密着することで水を吸収して水の膜を減らすことになるからです。

 雪道では以前からタイヤチェーンをつけることが通常でしたが、このスタッドレスタイヤの登場でタイヤチェーンをつけなくても滑らずに走れるようになりました。



それでもタイヤチェーンが必要な時もある

 ただ、大雪の場合に道路通行時チェーン規制が出されることがあります。その場合、スタッドレスタイヤでは走行禁止で、必ずタイヤチェーンを装着しなければなりません。高速道路を走っているときにチェーン規制が出されるとチェーンを装着していない車はたとえスタッドレスタイヤでも最寄りの出口で出なければならなくなります。

 タイヤチェーンは金属製やゴム製、樹脂製などがありますが、滑らない原理はタイヤに密着させることで凹凸ができ、凍結路面を捉えやすくなるからです。

 最近ではスノーソックスまたはオートソックと呼ばれる布製のタイヤチェーンもあります。これは布カバー全体が凍結路面にぴったりつくことで水を吸収して、その布の水分が凍ることで布と路面が貼りつく凍着現象を応用したものです。

 それぞれの材質によってメリットとデメリットがありますので、凍結路面対策として調べてから常備したいものです。



突然の雪や凍結路面にもしっかり準備して安心運転を!

 突然雪が降り始めて、あっという間に積もってしまうということがあります。その際に雪道を走る準備をしていない場合、道路交通法違反となって走ることができなくなる場合があります。道路交通法では雪道や凍結路面を走る場合、スタッドレスタイヤを装着するか、チェーンを装着するように規定されているのです。

 平地では平気でも、少し山道に入ると路面が凍結しているということもあります。車が滑ると交通事故の危険性が高まります。自分の車の安全だけでなく、対向車や後続車、前方を走る車や歩行者に対して、安全を確保する行動をとるのがドライバーとしての務めです。

 突然の雪や深夜早朝の路面凍結など予測できない道路状況にも事前に準備しておくことで安心して運転を続けることができるようになります。

 日頃から備えることで、普段の運転にも余裕が生まれます。安心運転には心の余裕が大切です。しっかりとした知識と万全の対策で、余裕を持った運転を心掛けましょう。




監修

大阪ガスオートサービス
大阪ガスオートサービス株式会社
SAFE推進部 安心運転訓練センター
企業ドライバーに特化した安全運転教育を提供し続け、20年。
受講企業数340社以上、受講者数は12万人を超える(2023年3月末時点)。
交通心理士/心理士補、指定自動車教習所検定員/指導員、交通機動隊白バイ隊員など、豊富な知識と経験を持つ講師陣が、多角的な視点、専門的知見により、安全・安心運転ドライバーへと導く。
公式YouTubeチャンネル

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