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2025年7月14日、四国の徳島自動車道で中型トラックと高速バスが正面衝突して2人が死亡、12人が重軽傷を負うという交通事故がありました。
中型トラックがセンターラインを越えたことによる正面衝突でした。
高速道路でセンターラインを越えて対向車が正面衝突することがあるのか、と考えてしまいますが、特に地方に多い対面通行片側1車線の高速道路では、しばしば同じような事故が起こっています。
この場合は、中型トラックのタイヤがバーストしたために制御不能となって、対向車線にはみだしたことが原因のようです。
片側1車線の高速道路では、対向車がセンターラインをはみ出してくると逃げようがなく、正面衝突するリスクが高くなります。
2025年7月22日には、島根県内の浜田自動車道で同じくタイヤがバーストしたトラックが転覆して後続のトラックがそれに追突。6人が重軽傷を負うという交通事故がありました。
事故現場の浜田自動車道も片側1車線の対面通行区間でしたが、徳島自動車道と違ってタイヤがバーストしたトラックが対向車線にはみだして正面衝突をすることは避けられました。
その大きな違いは、浜田自動車道の該当区間には中央にワイヤーロープが張ってあり、トラックはそのワイヤーロープに激突して転覆したということでした。ワイヤーロープのあるなしが対向車線へのはみ出しを防いだのです。
国土交通省の2024年3月の資料によると、高速道路の対面通行区間は有料区間で1,800km、無料区間で1,600km、合計3,400kmあることがわかります。高速道路全体12,200kmの実に27.9%が危険な対面通行区間なのです。
国土交通省ではそのうち400kmを4車線化候補箇所として拡張を進めているようですが、まだまだ実際は危険な対面通行の高速道路のままなのが実情です。
徳島自動車道も浜田自動車道もタイヤがバーストして対向車線方向へ車が飛ばされたことで、徳島自動車道では正面衝突の死亡事故となり、浜田自動車道では車の転覆とそこに追突した車による重軽傷事故となりました。正面衝突の死亡事故とはならなかったことに関する大きな違いは、センターライン上にワイヤーロープが張ってあったかどうかでした。
浜田自動車道では、そのワイヤーロープが対向車線へ車が飛び出るのを防いだわけです。死亡事故を防ぐためにワイヤーロープが一定の効果があったことがわかります。
それではなぜ徳島自動車道にはワイヤーロープがなかったのでしょうか?それは、事故現場が橋梁の上だったためにワイヤーロープを張ることができなかったということのようです。
ワイヤーロープは正式には「ワイヤーロープ式防護柵」と言って、2017年から設置工事が進められてきたものです。
なぜ橋梁の上では、ワイヤーロープを張れないのか?それは「車線幅が一定以上の広さがない区間」だからのようです。トンネルや橋梁は車線幅が狭い規格でしかい設計されていないということなのです。さらに路面下に排水溝の設備があったりしてワイヤーロープの支柱が打ち込めないという個所も多く存在します。
車線幅が狭いからワイヤーロープを設置できないということは、車線以外に逃げ場がないということも意味します。
トンネルや橋梁の上では、車線幅が狭いため、対向車線から車が飛びこんで来たら、逃げようとしてもトンネルの壁にぶつかるか、橋の下に転落するしかありません。すなわち逃げようがないのです。
逃げようがない個所こそワイヤーロープが必要なのに、設置できないというこの設計上の問題を解消することが重要な課題です。
ワイヤーロープが設置できない高速道路の対面通行区間のトンネル部は約260km、橋梁部は約250kmもあります。この危険な高速道路のまま放置することは、正面衝突事故を放置しているのと同じなため、その代わりになる技術として、センターパイプとセンターブロックが採用されテストが進んでいるようです。
正面衝突防止に対しても一定の効果があるようなので、ワイヤーロープを張れないまたは急いで4車線化できない片側1車線の高速道路には一刻も早く全てに設置してほしいものです。もし徳島自動車道に設置されていたら、この痛ましい死亡事故は起こっていなかったと思われるからです。
タイヤがバーストして引き起こした死亡事故。タイヤのバーストがなければ、交通事故は起こらなかったと考えられるため、タイヤのバーストがどういう場合に起こるのかを知っていることは非常に重要です。
タイヤがバーストする主な原因は空気圧の不足やタイヤの損傷と考えられています。車に乗車する前のタイヤの空気圧の点検や損傷有無の確認が大切になります。
またタイヤがバーストする前に「スタンディングウェーブ現象」というタイヤが波打つように変形する場合もあります。これが原因で運転中に車体の振動やハンドル操作に違和感を感じた場合は直ちに対策を講じる必要がありますが、運転者が気付かないうちにバーストする場合も少なからずあるようです。
タイヤがバーストしたら、スピードを落とし、安全な場所に停車することが大切なのですが、高速道路で高速走行中は一瞬にして制御できなくなって、対向車線に飛び出してしまったり、ワイヤーロープに激突したりすることもあるため、徳島自動車道や浜田自動車道のような交通事故が起こるのです。
徳島自動車道の交通事故でタイヤがバーストしたトラックを所有している建設会社は、タイヤは2週間ほど前に交換したばかりで、交通事故の2日前に目視で点検した際には問題はなかったと答えています。
交換したタイヤは中古タイヤだったようですが、この中古タイヤに問題はなかったのか、当日のタイヤの空気圧に問題はなかったのかということが、トラック側の過失となるかどうかに影響してきます。
タイヤがバーストした場合の交通事故においては、タイヤの経年劣化、空気圧不足、過積載など運転者側の過失が調べられ、その他交通事故現場の状況や被害状況を考慮して過失割合が認定されます。
徳島自動車道の交通事故ではバスは避けようがなく過失は考えられないため、トラックの過失が問題になります。
仮にトラックを所有する建設会社の言うとおりだとして、もし当日タイヤの空気圧に問題なかったとしたら、一体どこに過失があるのでしょうか?きちんと点検して車に乗っていて、交通ルールも守って運転していたとして、タイヤがバーストしたとした場合、交通ルールに違反していないという意識の運転者同士の交通事故ということになってしまいます。
車は運転だけ気をつけたらいいというものではありません。普段から点検をして、車を良好な状態にしておくことで安全運転ができるのです。
例えばタイヤの空気圧不足で走行することは、整備不良車両の運転として道路交通法第62条の「整備不良車両の運転の禁止」として道路交通法違反になります。また、タイヤの溝の深さも1.6mm未満の場合は車検不合格の基準となっており、その車を運転することはできません。
ドライバーは運転する時だけではなく、日頃から車を安全に運転するために何をしなければならないかを考えて行動することが大切なのです。
高速道路では気象状況などによって予期せぬ事態が起こることもあります。タイヤがバーストして正面衝突するような交通事故は運転者は誰も起こしたくはありません。それでも起こってしまう正面衝突事故が後を絶たないのは現状です。
暫定2車線区間などの高速道路の対面通行区間を運転する際には、予期せぬ危険があることをしっかり認識して運転することが大切です。それでも避けきれない徳島自動車道のような交通事故にあわないためには、危険な区間を運転しないことしか対策はありません。実際に徳島自動車道を使わず4車線の高松自動車道を迂回するという人もいます。
道路事情を事前によく確かめ、危険な道路より遠回りになっても安全な道路を選ぶような余裕を持つ。それが同乗者や他の交通パートナーに対しての「安心運転」となるのです。
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